■「日本株は世界の景気敏感株」と指摘する専門家も多い
12月28日、日経平均株価は何とか2万円台を維持して年を越えたが、世界的に不安定な株価が回復したとは考えにくい。不安定な株式市場の背景には、世界経済の先行き懸念の高まりがある。特に、クリスマス休暇前、米国のムニューシン財務長官が、急きょ米大手銀行の経営陣と会談したことは市場参加者の不安をあおった。
企業の海外進出などを受けて、わが国の経済は、国内の要因よりも、海外の要因に影響される部分が増えている。その意味で、「日本株は世界の景気敏感株」と指摘する専門家も多い。今後の株価動向を考えるためには、米国をはじめとする海外経済の動向を吟味し、それがどう、わが国経済に影響するかが最も重要になる。
今後の展開を考えると、2019年の前半までは、米国経済に支えられる格好で世界経済全体の安定感はそれなりに維持できるだろう。また、夏場の選挙を控えて、わが国をはじめとする主要国の政策期待も株価をサポートするだろう。
■12月25日の日経平均株価の下落は、やや行き過ぎ
一方、2019年後半以降は、先行き懸念が高まりやすいとみる。世界経済を支えてきた米国経済の減速が鮮明化する可能性は否定できない。米中貿易戦争の激化懸念など潜在的なリスク要因が顕在化する展開も考えられる。そうなると、円高などを通して企業業績の悪化懸念が高まり、わが国の株価は本格的な調整局面を迎える可能性がある。
2018年年末の時点で、世界経済全体は相応の安定感を維持している。それを踏まえると、12月25日の日経平均株価の大幅な下落は、やや行き過ぎていると考えられる。日々の株価動向に一喜一憂するよりも、長めの目線でわが国の経済、それを支える要因などを考え、その上で株価動向を客観的に考える姿勢が重要だ。
■米国経済は「実力」を上回る成長率を維持
重要なことは、米国経済が実力(潜在成長率)を上回る成長率を維持していることだ。それが、わが国をはじめ各国の景気を支えている。米連邦準備制度理事会(FRB)の予想では、米国の潜在成長率は2.0%弱と言われている。2018年4~6月期の米国実質GDP成長率は前期比年率換算ベースで4.2%だった。7~9月期の成長率は同3.5%だった。
実力を上回る成長の背景には、2017年12月にトランプ政権が税制改革を実現し、連邦レベルでの法人税率が35%から21%に引き下げられたことが大きい。減税によって、それまで好調に推移してきた米国経済が、さらに勢いづいた。
それに加えGAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)をはじめとするIT先端企業のイノベーションも米国経済の成長を支えた。その結果、2018年9月まで米国の株価は堅調に推移し、わが国の株価も支えられてきた。
ただ、未来永劫、経済の成長は続かない。過去の景気循環に照らすと、徐々に米国の景気はピークに近づいている可能性がある。減税の効果は一時的だ。効果が一巡するにつれ、米国経済の減速(GDP成長率の低下)は避けられない。
■GDP成長率がマイナスに落ち込む「失速」はいつか
問題は、いつ、GDP成長率がマイナスに落ち込む"失速"が実現するかだ。
米国の年末商戦が6年ぶりの増加となったことを踏まえると、景気のエンジンである個人消費は好調だ。賃金も緩やかに増えている。今すぐ米国の経済成長率がマイナスの水準に落ち込むことは考えづらい。2019年前半頃までは米国の緩やかな景気回復が維持され、世界経済全体の安定感が維持される可能性はある。それは、わが国経済と株価の下支え要因である。
2018年12月後半のわが国株価の行き過ぎた下落を受けて、2019年の年初以降は押し目の買いが入ってもおかしくはない。それ以降の展開を考えると、国内外での政策への期待が、日経平均株価をサポートするだろう。2019年の前半頃までは、主要国の景気対策への期待から、日経平均株価をはじめとする世界の株価がリバウンドする(価格が持ち直す)可能性がある。
2019年夏場、わが国では参院選が実施される予定だ。先行きの経済環境が見通しづらいことなどを踏まえると、衆参同日選になることも考えられる。来年10月に消費税率の引き上げ(8%から10%へ)が予定される中、安倍政権としては政権基盤を固め、長い目線で経済運営を行うことができる環境を作りたいはずだ。支持獲得のために、補正予算などを通して景気対策が発動される可能性は高まっている。
中国では景気の減速を食い止めるために財政・金融政策両面からの景気対策の重要性が高まっている。2018年12月21日に閉幕した"中央経済工作会議"の内容からもそれは確認できる。中国政府は、減税、インフラ投資、金融緩和、先端産業育成のための補助金交付などを進める可能性が高い。そうなれば、一時的に中国の景況感は上向くだろう。その際には、産業関連機器を中心にわが国の企業業績への警戒感が後退し、株価が持ち直す可能性がある。
米国でも経済政策への期待は高まりやすい。2020年の大統領選挙を控え、民主・共和両党ともに成果を示して有権者の支持を確保したい。大統領選挙に向けた点数稼ぎのために、経済対策が打たれる可能性は高いと見る。具体的には、民主党と共和党が歩み寄り、トランプ大統領が主張している中間層向けの減税が成立する可能性がある。それが実現すれば、米国経済が一時的に勢いづくとの見方からドル高・円安が進み、わが国の株価にプラスの影響があるだろう。
■徐々に高まる景気の先行き不透明感
2019年の前半は、先行きへの懸念よりも政策効果への期待が勝って日本株を中心に株価は若干戻るだろう。ただ、年後半に入ると、世界的に株価は軟調に推移する可能性がある。
2019年後半以降の世界経済の展開を考えたときに重要なのは、米国経済の減速が鮮明化する可能性があることだ。状況によっては、米国のGDP成長率が潜在成長率を下回る局面もあり得る。
その中で、FRBは慎重ながらも段階的に利上げを進める姿勢を維持している。景気減速懸念が高まる中での金融引き締めに市場参加者の心理が耐えられるか、不透明感は増している。もし、利上げへの警戒から米国の株価が下落すれば、米国の消費者心理には無視できないマイナスの影響があるだろう。2020年には米大統領選挙などの不確実性要因を受けて、リスク回避の考えが一段と強くなり、米国経済が失速する可能性があるとみる。
■日本株は本格的な調整局面を迎えることが想定される
米国経済への懸念が高まるとともに為替相場では円高が進みやすい。背景には、"円キャリートレード(円を売って、ドルなど金利の高い通貨を購入し、二国間の金利差の確保を狙う取引)"の解消がある。わが国の"円"がリスク回避局面で買われる(円高になる)のは、円キャリートレードの巻き戻しから円買い需要が増えるためだ。円高は、国内企業の業績に無視できない影響を与え、株価を下落させる可能性が高い。
更に、米中貿易戦争への懸念もある。米中の貿易戦争は、ITを中心とする覇権国争いだ。それが短期間で終息するとは考えづらい。加えて、スマートフォンの販売伸び悩みなど、IT先端企業のイノベーションにも陰りが出始めている。それは、中国経済の減速や、わが国の景気回復を支えてきた産業用機械の業績懸念に直結する問題だ。
そのほかにも、新興国の債務問題、欧州の政治リスク(独仏英伊)など、世界経済にとって無視できないリスク要因は少なくない。米国の景気減速が鮮明化する中で、他の懸念材料が顕在化する場合、世界の景気敏感株である日本株は、本格的な調整局面を迎えることが想定される。
----------
真壁 昭夫(まかべ・あきお)
法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
----------
法政大学大学院 教授 真壁 昭夫 写真=時事通信フォト