銀行窓販の解禁前夜を振り返ってみると、96年には日本版金融ビッグバンがスタート。規制緩和が次々と実施され、投信窓販解禁もその一環だった。
97年には山一証券、三洋証券、北海道拓殖銀行が、98年には日本長期信用銀行、日本債券信用銀行が相次いで経営破綻。そうした荒波の中、銀行の投信窓販は98年12月に船出した。
金融市場が不安定な状況ではあったが、証券会社の人材が流動化し、銀行へ流入したことで、投信販売の体制が早期に確立できたのは不幸中の幸いであった。また、運用会社にも証券系の人材が流入し、銀行向け研修などのサポート体制が強化された。
99年10月には株式の売買手数料が完全に自由化され、証券会社は株式から投信を中心とした資産管理型営業へとカジを切った。
これらの効果もあり、投信の純資産残高は急速に拡大した(図表1)。98年12月時点の追加型株式投信(上場投信=ETF=を除く)の純資産残高は10兆円程度だったが、約8年後の2007年1月には50兆円まで膨れあがった。08年には純資産残高で銀行が証券を抜き、投信の販売チャネルとして確立した。
銀行窓販の急成長を支えたのは毎月分配型ファンドだ。世界の債券に投資する「グローバル・ソブリン・オープン(毎月決算型)」は象徴的な商品だった。同ファンドによって、毎月分配型の認知度が高まったといえる。株式型で初めての毎月分配型となる「ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(毎月分配型)」も人気化した。
「グロソブ」「グロイン」と呼ばれ、05年から08年までこの両ファンドが投信市場のけん引役になった(図表2)。同時期には「財産3分法ファンド(不動産・債券・株式)毎月分配型」「マイストーリー 分配型(年6回)」「GW7つの卵」など、複数の資産に分散投資するバランス型ファンドにも資金が流入した。
状況を一変させたのが08年のリーマン・ショックだ。ほとんどの資産が大幅に下落し、投信も大きく値下がりした。低リスクを売り物にしていたバランス型ファンドも値下がりにより資金流出が拡大。グロソブ、グロインをはじめ大型ファンドも資金流出に見舞われた。
リーマン・ショック後の相場回復局面で、台頭したのが通貨選択型ファンドだった。09年1月設定の「野村米国ハイ・イールド債券投信(通貨選択型)」がヒットし、通貨選択型ファンドが大量に誕生した。
同時期は、ブラジル債券型、豪州債券型ファンドなど、ハイリスク・ハイリターンの投信が投信市場をけん引した(図表2)。13年以降、米国の景気回復が顕著となり、米国不動産投信(REIT)、米国ハイ・イールド債券など米国資産を対象とした毎月分配型ファンドが人気化した(同)。
16年ごろになると、人気が米国REIT型に一極集中するようになった。高分配の「フィデリティ・USリート・ファンドB(為替ヘッジなし)」「新光 US-REIT オープン(愛称:ゼウス)」など毎月分配型ファンドが主役になった(同)。
しかし、まもなくして金融庁の方針の下「フィデューシャリー・デューティー(顧客本位の業務運営)」の強化が課題になった。金融庁は運用実態より高い分配金を出す毎月分配型ファンドに厳しい評価をした。その結果、多くの毎月分配型ファンドが分配金を引き下げて、大量の資金流出につながった。これを機に毎月分配型ファンドは失速した。
18年はネット関連のテーマ型ファンドが人気化し、従来型の毎月分配型ファンドはほとんど販売されなくなった。一方で、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信」のように、運用実態に見合った分配をする「分配金が控えめな毎月分配型ファンド」が設定され始めた(図表2)。
銀行の投信窓販の視点から振り返ると、実は勢いがあったのはリーマン・ショックの直前までで、以後は低迷が続いている。販売チャネルにおける銀行の残高シェアは07年は50%以上あったが、足元では30%以下まで低下した(図表1)。
最も大きい理由は「フィデューシャリー・デューティー」の推進により、毎月分配型ファンドの販売が手控えられたことだろう。それまで銀行の投信販売の主力は毎月分配型ファンドだっただけに、大きな影響が出た。
しかしながら、ピンチはチャンスでもある。分配金の高さを売り物にした販売スタイルはファンド自体を深く理解する必要がなく、結果として営業担当者のスキル低下を招いていたという。こうした点を改善しなければ銀行窓販における営業力の復活は難しい。
例えば、証券会社では販売チームの中でのOJT(職場内訓練)を通して営業のノウハウを学ぶ体制が確立されている。一方、銀行窓販はチームとして十分機能してない面があるという。
投信窓販で実績を上げている銀行は、行員の教育でロールプレイング(模擬販売)を重視しているケースが多い。OJTやロールプレイングは実践的な学習といえる。「実践的な従業員教育」が銀行窓販の存在感を再び高めるカギとなろう。
銀行窓販の営業力が底上げされれば、個人にとっても資産運用を考える際の力強い味方になる。