地方の高利回り収益物件の「見えないリスク」

著者:dacheng    日付:2020.03.12



今回は、地方の高利回り収益物件のリスクを検証します。※近年の不動産投資ブームにより、チャレンジする人は右肩上がりに増加しています。しかし、どんな投資であっても「リスク」があることを忘れてはなりません。本連載では、物件選びの注意点から「ファイナンシャルプラン」の考え方、リフォーム、実際の投資事例まで、リスクを抑えた不動産投資の基本について、一連の流れを分かりやすく紹介します。

一見すると高利回りでも「入居率」に落とし穴が…

前回、地価の下がりづらいエリアにおける収益物件への投資メリットを解説しましたが、今回は地方の高利回り物件を例にとり、その注意点を考えてみましょう。

 

「アパートを借りたい」という潜在的な賃貸需要は人口と密接に影響します。特に地方都市は地方密集度が低いため、人口が20万人を割っているエリアでは相当に利回りが高くなければ投資は控えた方が無難です。

 

全国で一番入居率が低く(2013年、空家率20.6%)、20万人都市の山梨県甲府市を例にとってみます。

 

約7万9000世帯中、約3万世帯の集合住宅がありますが、賃貸住宅のニーズは山梨大学、山梨学院大学の2カ所の学生需要(合計約6000人)に集中しています。ハウスメーカーの新築物件も毎年建設されていますので、学生の退去が4月にずれ込むなどして入学シーズンを逃すと、1年間空室が続いてしまう部屋も数多くあります。

 

大学撤退の噂はないものの、このように人口20万人以下の地方都市は何らかの要因で極端にエリア入居率が下がってしまうのです。

 

例を挙げて解説します。

 

【物件①】西東京市

駅徒歩20分

物件価格8000万円

利回り10%

1K×12世帯家賃800万円/年

 

【物件②】甲府市

駅徒歩20分物件価格8000万円

利回り11.2%

1K×16世帯家賃900万円/年

 

数字だけでいえば明らかに甲府市に軍配があがります。ただし甲府の空家率が約20%、西東京の空家率が約10%と倍の開きがありますので、実際の手取りは、

 

【物件①】西東京市 家賃年800万円×0.9=720万円

【物件②】甲府市 家賃年900万円×0.8=720万円

 

と、同額になるのです。

 

いくら利回りが高くても、人口減少により入居率は下がるものです。地方は、人口減少により行政や産業を維持できず衰退していくエリアと、生き残るエリアに分かれていきます。地方であれば少なくとも人口20万人以上の地方主要都市の物件を持つことをお薦めします。

 

さらに、地方高利回り物件にこだわるのであれば、賃貸優位性が高い戸建て賃貸、分譲マンション、そしてエリアで一番人気の物件など、優位性のあるものをお薦めします。

 

エリアによって入居率には違いがありますが、特に日本で騒がれているのは空き家問題です。単純に空室の少ないエリアであれば入居率の下落を防ぐことができ、入居促進の対策も打ちやすくなります。

新築は「業者の利益」と「プレミアム家賃」に留意

中古物件とは異なり、新築は賃貸需要が旺盛です。そして、当然ながら賃料も中古と比べて2~3割高く設定することができます。また、オーナーにとっても、大規模修繕実施まで10年以上ある、建物の積算価格が取れるため銀行の評価が比較的高く、購入時の融資を受けやすいという利点があります。

 

そのため新築物件を購入したいという投資家のニーズは高いのですが、ほとんどの新築には「見えないリスク」が潜んでいるのです。

 

まず、どんな新築物件であれ建築会社が施工している分、建設業者の利益が上乗せされています。そのため、建物の値段だけで見ると、

 

新築物件の価格-建設業者の利益=中古の価格

 

となり、中古に比べて新築は業者の利益分割高であり、経費が上乗せされているものとなります。

 

これは収益アパートだけではなく、建売住宅も同じです。「建売住宅を買って3年で売りに出すと3割下がる」といわれていますが、購入時には建設業者の利益が加算されており、中古市場にいくとそれがなくなるためです。

 

建設業者の利益は中小の業者で2割、ハウスメーカーなど大手になると宣伝広告費がかかるので約4割となり、建物に占める割合としては相当額にのぼります。

 

また「何割を“プレミアム家賃”として上乗せされているか」を調べておく必要があります。新築に住みたい人は多いですが、ニーズに合わせて1割から2割家賃が上乗せされています。ワンルームであれば、5~10年で新築プレミアム家賃から中古家賃へと緩やかに移行します。

 

裏を返せば、新築ではあるが業者の利益が少なく、家賃が相場からそれほど乖離していない物件は、十分投資に見合うものになるのです。可能であれば、業者を通さずに土地を購入し、さらには安い建築会社を見つけて新築を建てれば、新築アパートを企画する業者の利益がない分、低価格で新築アパートのオーナーになれます。

 

私が以前住んでいた仙台市では狭い土地を購入し、1K4世帯のアパートを1年に何棟も建てていたアパートオーナーがいました。その方には知り合いの大工さんがおり、安く建築できるノウハウを身に付けていたのです。

 

このように、建設コストを抑えることができるならば新築の運用も可能です。また稀にですが、自社で新築し、入居後売却管理する管理主体の会社があります。土地を買わせてそこに建築していくのですが、自分が管理するのであればプレミアム家賃から相場に下がったときのことも考えなければならないため、家賃を低めに設定してくれる良心的な会社も存在します。

 

家賃の話に戻りますが、中古物件であっても築5~10年ものは、新築レントロール(家賃表)で入居している場合が多いのです。そのため退去後、次の入居者募集の際に家賃が1~2割下落することを想定し、購入時にはあらかじめレントロールを見て相場家賃との差を確認することが必要です。


著者紹介

ハウスリンクマネジメント株式会社 代表取締役 宅地建物取引士/液化石油ガス設備士/丙種ガス主任技術者

東京都八王子市出身。新卒で株式会社ミツウロコに入社。プロパンガスの営業、不動産リフォームに約10年携わり、仙台、埼玉で約500名の大家、約200社の不動産会社のサポートを行う。その後、武蔵コーポレーション株式会社に転職。約1000件の賃貸管理、4500件のリフォーム提案を行い、賃貸管理、収益不動産のノウハウを学ぶ。平成26年、ハウスリンクマネジメント株式会社設立、現在に至る。