金利をあげれば「デフレは終わる」といえるこ

著者:donghai    日付:2018.12.21

空前の企業利益と老後不安は低金利が原因

1990年初めの株式市場暴落をきっかっけとしたバブル崩壊からもう30年近くが経つ。2012年末からのアベノミクスのおかげだけとは思わないが、安倍晋三氏が首相に就任してから、日本経済がどん底を脱出して回復の道のりを示していることに異論を述べる人はいないだろう。
 
しかし、現在にいたるまでの日本の景気回復に、アベノミクスや黒田バズーカとよばれる超金融緩和政策がどれほど貢献したのかの評価は慎重に検討しなければならない。実際、2003年の、りそなショックあたりのどん底から2007年頃まで、日本経済は自律的な回復を見せていた。

ところが2007年のサブプライム・ショック、続く翌年のリーマン・ショック、さらには2011年の東日本大震災・福島原発事故で大きな打撃を受け、いまだに揶揄される当時の政権政党のだらしなさもあり日本は「危機的状況」に陥った。

外交なども含めて、安倍首相は歴史に名を残す宰相だと思うが、こと日本経済に関しては安倍氏や黒田氏がいなくても「まともな」人々がリーダーであれば、それなりによくなっていたはずだ。

日本人が極めて高いモラルを持った勤勉な民族であることを忘れてはならない。

むしろ、各方面からの圧力によって「空前絶後の低金利」を長期間維持したことは失策であったと考える。端的に言えば「ゾンビ企業」を温存させ、さらにその「ゾンビ企業」の供給過剰によって、日本経済回復を遅らせたのだ。

また、現在の上場企業の空前の利益は、低金利という政府からの「補助金」によるところが大きい。

例えば会社四季報によれば、日産自動車の有利子負債は8兆円弱であるので8兆円として計算してみる。保有資産の金利等は無視するとして、大企業なので借り入れ金利は1.5%としよう。年間の利払いは1200億円になる。もし、金利が上昇して6%になったとしよう。利払いは4800億円になり、2018年3月期の純利益約7500億円の大部分が吹きとぶ、

年利6%は歴史的に見て、企業の借入金利としては標準であり、もっと高騰すれば利払いだけで赤字転落である。

さらに言えば、官僚・公務員などの収入が保証された人々にとっては、低金利やデフレはとても都合が良い。収入が一定なのだから、入ってくるお金の価値が上がるデフレは天の恵みである。

それに対して、一般の日本国民の生活は「将来不安」だらけである。金利が低いせいだけではないが年金の運用成績が不調だし、それ以前に人口構成の心配もあるので、年金が本当にもらえるか不安である。
 
民間の商品で運用しようにも金利水準が低すぎる。幸運な人々は老後に1億円の金融資産を持っているだろうが、それでも、0.1%で運用して年間10万円、1%で運用して100万円にしかならないことになる。夫婦二人で安心して暮らせる年間500万円を1%の金利で得るためには5億円が必要だ。

これでは、多くの人々が、将来不安を持ち、いくら目先の収入が増えても支出をせずにため込み、景気が浮揚しないのも当然といえる。

すでに、当サイト8月13日の記事「異次元緩和でも日本にインフレが起こらない極めてシンプルな事情」で、1989年のベルリンの壁、1991年のソ連崩壊以来世界中に広がっている「供給過剰ワールド」について論じている。

資金をやたらに供給してもインフレは起こらないし、景気を後押ししないのは明白だが、今回はさらに踏み込んで「金利をあげればインフレが起こる」という点を論じたい。

異常時の金融緩和は効果が薄い

そもそも、大規模な量的緩和は「異常時」に発動されるので、銀行はいくら潤沢に資金が供給され調達コストが安くても、貸し出しをすればその企業が破綻して焦げ付くと恐れて融資を手控える。実際、米国、日本、欧州ではそうなった。

その結果、中央銀行が供給した資金は市中の民間銀行から中央銀行の当座預金としてブーメランのように還流し滞留する。

中央銀行が供給した資金は、金融機関の中でぐるぐる回っているだけで、肝心の民間企業へ流れないのである。

資金供給といっても「借りた金は返さなければならない」のがルールである。そのことを一番よくわかっているのが、民間の金融機関である。いくら金利が安いといっても、大規模金融緩和時の経営環境の厳しい時に挑戦的なビジネスを行っている企業に融資する勇気は無い。

その結果、融資の利ザヤがどれだけ薄くてもきちんと返済してくれると思われる一部の優良大企業への融資に集中し、それらの大企業には資金があふれる。

さらには、将来性が無くても、低金利だから何とか返済できるゾンビ企業が生き残り、それらの企業の過剰が、他の優良企業の足を引っ張ることになる。

一般に、不景気の原因は「供給過剰」による部分が大きいことは、前述の「異次元緩和でも日本にインフレが起こらない極めてシンプルな事情」の記事で詳しく述べているが、低金利も不景気の大きな原因の1つであることは確かだと考える。

需要がないのに資金を供給しても

エンゲル係数という言葉は読者にもなじみが深いと思う。人間の胃袋の大きさは金持ちも貧しい人も同じであり、収入が増えても食費はその収入カーブよりも緩いカーブでしか増えないという理屈に基づいている。

ちなみに日本のエンゲル係数は、特にコメなどの輸入規制で元々食品価格が高い上に高品質志向なので、先進国ではかなり高水準にある。カリフォルニア州の農業関係者の話では、農作物のうち、最も見た目がきれいなものが日本向け、その次のグレードが米国内向け、最もグレードが低いものが欧州向けだそうである。

これは筆者の定義なのだが、このような食品に関わるエンゲル係数を「特殊エンゲル係数」、食品を含めた消費全体の指数を「一般エンゲル係数」と名付けてみる。

「特殊エンゲル係数」は、消費支出全体に占める食費の割合だが、「一般エンゲル係数」とは、収入全体に対する消費の割合を示す。

金融緩和によって資金を供給しても、一般消費財の消費=「一般エンゲル係数」は緩やかにしか上昇しない。つまり、いくら収入が増えてもそれが消費に直結するわけでは無いということだ。

普通の消費者は、10台の自転車を買う資金が手元にあるからと言って、特別な必要が無い限り、そんなにたくさんの自転車を買ったりはしない。

特に、現代においては、先進国の消費者は「欲しいものは何でも持っている」といわれる。いくら金をばら撒かれても買いたいものが無いのだ。特にインターネットの世界では、多くのものが無料で手に入る。

大事なのは、消費者に「欲しい」と思わせる商品やサービスを供給することであり、その創意工夫を引き出すためにはコストの安い天から降ってくるような資金よりも、苦労して獲得したコストの高い資金の方がプラスだと考える。

「需要」が無いのに資金を「供給」しても意味が無い。結局、消費しきれなかった資金は中央銀行に還流するものを除けば、株式や不動産などの資産の購入へと向かい資産インフレを起こす。これまでの不動産価格の上昇は、このような構造に支えられているのだ。

不動産に関しては、人口の減少やIT化による不動産需要の現象も含めて将来の見通しが暗いのに対して、現在の日本の不動産価格は高すぎる(9月17日の当サイト記事「一般投資家はこの先、日本の不動産には手を出してはいけない」)。日本の1980年代のバブルで一般消費財の価格があまり上昇しないのに土地や株式の価格だけが高騰したのがその典型であり、現在の日本もそれに近い状況にある。

ただし、日本の株式については、筆者個人は強気の見通しを持っている。(当サイト10月6日「今後4半世紀の間に日経平均株価は10万円に達することができる」)。2020年に東京オリンピック、25年に大阪万博が開催されるということもある。

しかし、より本質的には、少なからぬ企業が低金利の終了によって崩壊する中で、優良企業がそれらのゾンビ企業の呪縛から解き放たれ、高金利経済の中で「生存者利益」を享受するからである。したがって、全体の株価が上昇するとはいえ、投資先としてどの企業を選択するのかは極めて重要である。

発想の逆転

低金利政策が、場合によっては経済の底上げをサポートすることがあるのは否定しない。

しかし、アベノミクスと連動した緩和政策だけでも2012年末から数えてもう6年になる。欧州もリーマン・ショックやギリシャ危機以降、緩和政策を続けているが芳しい成果は無く、フランスではマクロン政権を揺るがす「黄色いベスト」のデモで死者まで出ている。

米国は、比較的緩和政策がうまくいっているケースだが「米国社会は借金をしてまで消費する人々」が少なくないことを忘れてはならない。
 
日本や欧州でもローンを組む人々はたくさんいるが、カードを何枚もつくって消費しカード破産する人々はごくわずかだ。また、米国のようにカード破産した人にすぐまた新規カードを発行することも行わない。

米国の例が端的に示すように、金融緩和は「消費需要」とセットでなければ効果を発揮しない。繰り返すが米国は借金で消費する社会だから金融緩和が効果的なのだ。クレジットカードの使用を極力控える堅実な消費者が多い日本社会では、金融緩和の消費浮揚効果は薄い。馬鹿の一つ覚えのような日本の超金融緩和はもう終わりにするべきではないか?
 
金利上昇によってゾンビ企業が倒産するという副作用はあるが、もともとゾンビ企業は墓の中で安らかに眠っているべきであったのだ。

高金利によって消滅するゾンビ企業、あるいは、米中による「第2次冷戦」によって今後、世界市場から消え去ると思われる共産党政府の中国などの「安売り国家」との消耗戦から優良企業が脱出すれば、創意工夫にあふれた彼らの挑戦的なビジネスで消費要が喚起されるはずである。

もっと大きいのは、金利上昇によって将来不安が無くなり、手元の現金も増える消費者の積極的な購買行動である。これは「株価上昇」によって高級車を何台も買う「資産効果」というものが確実に存在することから、疑いが無い。

要は、大企業とゾンビ企業への補助金である「低金利」をやめて、その資金を金利上昇という形で、国民の預貯金に分配すればよいということだ。

金利が上昇すれば、将来不安も無くなるので、国民は確実に消費する。その消費によってインフレが起こり、景気もさらに上向きになるはずである。

大原 浩