運転手が突然意識失う…バスで相次ぐ「健康起

著者:donghai    日付:2018.12.06

事業者間でも意識が高まる「健康起因事故」

2018年11月15日(木)、三重県の紀勢道を走っていた観光バスの運転手が突然意識を失い、それに気づいた乗客らがハンドルを握り、バスを側壁にぶつけて停めるという事故が発生しました。
同様の事例は、紀勢道における事故の2週間前には千葉県、10月には神奈川県、6月には富山県と、相次いで発生しています。バスなどの道路運送事業者は、運転手が疾病などで運転を継続できなくなった事象について国に報告する規則がありますが、国土交通省自動車局安全政策課によると報告件数は増加傾向にあり、2016年には300件を突破。うち3割で物損事故や人身事故につながっているといいます。

【画像】将来はさらに進化「ドライバー異常時対応システム」

国土交通省の資料によると、このような「健康起因事故」を起こした運転手約1000人の疾病別内訳では、くも膜下出血などの脳疾患が16%、心筋梗塞や心不全などの心臓疾患が14%、さらに消化器系疾患6%、血管疾患4%、呼吸器系疾患5%と続きます。このため、同省では運転手の健康管理マニュアルや、脳血管疾患の対策ガイドライン、突然の意識障害の原因となる睡眠時無呼吸症候群(SAS)の対策マニュアルなどを策定し、「健康起因事故」の防止に向けて事業者や運転手が知っておくべき内容や、取り組むべき対策を示してきたそうです。

なお安全政策課の担当者によると、「事故を起こすのは必ずしも高齢ドライバーだけではありません」といいます。

「起こってしまった事故」の被害を抑えるハード対策も

「健康起因事故」は、ひとたび起これば大きな被害につながりかねません。国土交通省では、起こった事故を拡大させないためのハード対策として、緊急時に車両を自動で停止させる「ドライバー異常時対応システム」のガイドラインも策定してきました。

はとバスが導入した新型いすゞ「ガーラ」の「非常ブレーキ」ボタン。ドライバーが急病などで運転できなくなった際、バスを自動で停止させるシステムが搭載されている(2018年9月、伊藤真悟撮影)。        

そのシステムが、2018年夏に発売された日野の大型観光バス「セレガ」の新型、およびその兄弟車であるいすゞ「ガーラ」の新型で初めて採用されています。運転席と、運転手の顔が見える最前列客席の上方に「非常ブレーキ」スイッチが搭載されており、これが押されると、車内外で警告灯やハザードランプ、クラクションなどが作動したのち、自動で停止するというものです。

はとバスでは9月に、このシステムを備えた「ガーラ」の新型を5台導入。ツアーの出発前に、そのようなシステムがある旨を車内アナウンスで説明しているといいます。未搭載の車両においても、緊急時マニュアルを用意し、バスガイドにもサイドブレーキを引いて車両を停止させるよう教育しているとのこと。

また、近年は乗用車でも、センサーで障害物を検知して自動的にブレーキをかける衝突被害軽減ブレーキ(いわゆる「自動ブレーキ」)が普及していますが、車両総重量12t以上の観光バスにおいては、2014年から段階的に、新車への装着が義務化されています。

バス事業者のコンサルタントである高速バスマ―ケティング研究所代表の成定竜一さんによると、日本のバスでは2010(平成22)年に初めて衝突被害軽減ブレーキが搭載され、2018年現在で観光バス車両への普及率は6割程度ではないかといいます。「バスの更新基準は12~13年ですので、『ドライバー異常時対応システム』も、あと10年もすればかなりの車両に普及するでしょう」とのことです。

バスの安全対策「アピール足りない」!

車両側の対応も進むなか、はとバスは運転手の健康管理にも力を入れています。

「ドライバー緊急対応システム」の作動イメージ。警告灯やハザードランプ、クラクションなどで車内外に異常が知らされたうえで、バスが停止する(画像:日野自動車)。

「当社では2015年から睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査を全運転士に実施し、現在、脳のMRI検診も実施しています。日常的にも、運転士の出勤時には必ず血圧の測定を行い、出庫点呼の際に健康状態、睡眠状況を確認。毎月のデータを産業医がチェックし、必要に応じ面談を行い健康を管理することで、輸送の安全確保に努めています」(はとバス)

高速バスマーケティング研究所の成定さんによると、このような健康への取り組みを自社ウェブサイトで紹介する事業者も増えているそうです。「特に高速バスの場合、乗る人が自身で会社を選ぶこともあり、大手事業者を中心に健康への取り組みを示すことが定着しつつあります」とのこと。一方、貸切バスの場合は旅行会社などがバス会社を決めるため、乗る人が直接バス会社を選ぶケースが少なく、そのような対応が遅れているといいます。

「旅行会社のツアーパンフレットに、利用予定のバス会社名を明記することも義務化され、旅行業でもバスの安全対策に意識が高まっています。バス業界からも、旅行業界をはじめとする他業界へ、安全に対する取り組みをもっとアピールすべきです」(成定さん)

成定さんによると、「健康起因事故」の原因は、想定し始めたらキリがなく、事業者も有効な対策を探りながら取り組んでいる状況とのこと。そのため、やはり事故が起きてしまった場合に、いかに被害を食い止めるかが重要だそうです。「バスガイドだけでなく、旅行会社のツアー添乗員などにも緊急時の対応について周知すべきです。仮に『ドライバー異常時対応システム』を搭載していても、その存在が知らされなければ意味がありません」と話します。

ちなみに、「ドライバー異常時対応システム」搭載車両では、客室側に設けられた「非常ブレーキ」スイッチが不必要に押さ
れてしまった場合、運転手の判断でそれをキャンセルする機能も備わっています。